小説 文学っぽいもの

『変愛小説集』アリ・スミスほか

ISBN: 978-4062145442 2008年 講談社

☆☆☆☆☆

翻訳家、岸本佐知子さんが選んで訳した「変な」恋愛小説集。現代英米文学ということで興味もあり、読んでみました。

エッセイは読んでいたのですが、訳は役者の押し付けを感じない良い加減でなされていて良かったです!
爽やかそうで、グロくて、でもやっぱりそれも「愛」とか「恋」だったりして。

『まる呑み』なんかは気持ち悪いくせに、とても切なかった。女の人って繊細そうで図太いとこともあって、そういう不思議なバランスがうまい。意外と男女の物語には文化を越えた共通点が多いものですね。

「五月」 アリ・スミス
「僕らが天王星に着くころ」 レイ・ヴクサヴィッチ
「セーター」 レイ・ヴクサヴィッチ
「まる呑み」 ジュリア・スラヴィン
「最後の夜」 ジェームズ・ソルター
「お母さん攻略法」 イアン・フレイジャー
「リアル・ドール」 A・M・ホームズ
「獣」 モーリーン・F・マクヒュー
「ブルー・ヨーデル」 スコット・スナイダー
「柿右衛門の器」 ニコルソン・ベイカー
「母たちの島」 ジュディ・バドニッツ

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『佳人の奇遇』島田雅彦

ISBN:978-4-06-214005-8 2007年 講談社 

「婦人画報」2006年1月号~12月号連載

☆☆☆

「ドン・ジョヴァンニ」の舞台に今夜集まるのは、魅惑の歌声ながら本番で実力が出せないオペラ歌手、彼を舞台にあげれば成功報酬100万、で雇われたホステス、色男で絶倫を誇るマエストロ、クラシックファンの冴えない大学講師、彼に一目ぼれした女、彼女にアドバイスする占い師、路上デビュー寸前の男・・・などなど。

168ページの中篇で読みやすい。『ドン・ジョヴァンニ』の物語を比喩に人物たちの気持ちを語ったり、『ドン・ジョヴァンニ』の解説が挿入されたりで、気軽に読めるオペラ案内の側面もあり。聴いてみたくなる。

どん底の人たちが多く出てくるわりに悲壮感がなく、むしろからっと清清しい語りになるのが、島田雅彦風なのかしら? エッセイは時々読むが、熱くてクールで、という世間との距離感が小説でも見える気がします。

文章が水増しした感がなく、締まっているのも良かった。

☆NHK「知るを楽しむ」2008年7-9月 「オペラ偏愛主義」島田雅彦出演中☆

本人が素敵すぎるのって、作家にとってよいのか悪いのか・・・島田雅彦は生きてる日本の作家のなかでは1番だと思うんだけど。『ダ・ヴィンチ』のいい男ランキングがいまいち腑に落ちないのう

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『嵐が丘』エミリー・ブロンテ

ISBN:978-4102097045

☆☆☆☆ (☆4つは、オリジナルの魅力に対して)

新訳だというので、読んでみた。すらすら読めるような気がしつつ、ところどころ「??」。

あまりに登場人物たちのセリフがリズミカルに、矢継ぎ早に繰り出されているので、読み進めちゃうのですが、意味が掴みにくいところも多々ありました。原文を読んではいないので、もともとなのか、訳者の鴻巣友希子さんの特徴なのかは、定かではありませんが、おそらく訳者の力量かと・・・思います。

ヨークシャー訛りを出そうとされたのは、評価したいと思います。罵詈雑言の応酬は楽しく読みました。ほとんどの登場人物たちは、常にののしりあっているので、それが楽しいのは良いです。

それにしても、大昔に読んだはずか、ものすごい断片的なイメージでしか覚えてなくて驚きました。ヒースクリフが風がごうごうと吹き込んでいるキャサリンの居た部屋で、亡き彼女の名前を連呼している場面(怖かった)と、ヒースクリフが苛められてる場面。

それだけかよ! ・・・お陰で、まるで初めて読むような気持ちで感激して読みました。

読み終わって振り返ると、恋愛小説だとは到底思えない。確かに恋愛ではあるけれど、そんなロマンスじゃなくて、もっと人間の根本を見極めたいという欲求があると思います。
人が、どうやって自分で自分を認めるのかという問題とか、「自己」って何?とか、そういう問題を愛情と憎しみを糧に描こうとしているのではと思いました。

ヒースクリフ、という苗字をもたない肌の朝黒い拾われっ子の一代記でもあり・・・。ヒースクリフの実の子が早世してしまうというのも、意味深だー血のつながらない血のつながりでなく、魂のつながりこそ、強い絆になるということ? ヘアトンのことは憎からず、教育を与えなかったけどそこそこ良くしてやってたし。

拾ってきたリントン氏と本当の絆は築けなかったことが、ヒースクリフの激しい暴力的な愛情表現の底にありそう。
無償の愛を受け取りたかったのに、そしてそれはキャサリンが与えてくれると思っていたのに、彼女がアーンショウのやさおとこと結婚を決めてしまったことで、がらがらと崩れていったに違いない。
ヒンドリー(キャサリンの兄)から受ける虐待への復讐なんかは、キャサリンに捨てられた苦しみからみたら大したことではないかのようです。

※ナタリー・ポートマン主演で映画化(リメイクとか・・・)も予定されてます。

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『人のセックスを笑うな』山崎ナオコーラ

ISBN:4-309-016847 河出書房新社 2004年

☆☆

映画の原作も読んでみよう~、ということで読んだ。

何だか読むほどに腹が立ってくる小説だった。

この原作からよく作ったなぁ、の殿堂入り。
原作からは想像もできない素晴らしい脚本、映画作品になってますね、というランキング。不動の一位は『耳をすませば』宮崎駿監督で、暫定2位決定。

ミステリを除いては、文学賞を基準に本を読んだことはないのだが、これで「文藝賞」というので、驚く。賞ってあまり意味ないよな。

ダメダメな男の子の話を、ずっとダメダメなまま、最後も一ミリも移動してないダメっぷりのまま。それを評価したというなら、納得します。選評見てないので、何を評価されたのかサッパリ分かりませんでした。
う、ダメダメなままなのを「すばらしいダメの表現だ」と評価したのでしょう。

19歳の主人公「みるめ」と、39歳の「ユリちゃん(夫あり)」の、どこにも行かない、ただまったりと危機感もあまりなく、くっついて、とりあえずオトナにならないでいたいなぁ・・・と一緒に羊水みたいなぬるま湯のなかで、まどろんでいる。

「みるめ」は就職活動もしないし、学校で学ぶことはないと家業を継いで稼いでいる「えんちゃん」から可愛く好きと告白されても、「ユリちゃん」とのぬるい関係を選ぶ。
「ユリちゃん」は家事をしない(鍋は作れる)、ボサボサの格好で、色気を出す気はない感じ。

後半、「ユリちゃん」が離れていった。彼女は温かいママのおなかから外にでてみようとします。ただし、お料理も生活も面倒みてくれている「猪熊さん」付きなので、その気になっただけでしたけど。

22歳の「みるめ」が就活をしようと思っている、と友人に言うところがラスト。ということで、彼も遅れて社会への小さな一歩を、ママ(ユリちゃん)にさようならされて、やっと気づいたらしい。

そうかい、そうかい、オトナにならなきゃいけなくなったんだな、頑張ってくれ・・・

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『太陽の塔』森見登美彦

ISBN: 978-4101290515  2003.12発行

☆☆☆☆

日本ファンダジーノベル大賞受賞作にして、登美彦氏のデビュー作。

まなみ号、男汁、ええじゃないか・・・筆が進んだらしきところ(語り口がのってるとこ)と、とても内省的なところがいい具合だった。
森見登美彦のこの線の語りは好き、楽しみました。根詰めてツメツメになっていない勢いが残っていて、良いよい。

我々の日常の九〇パーセントは、頭の中で起こっている」。名言。その90%を文字にするとこうなるの。

水尾さん研究と称したストーカー(本人は否定)のような行為が物語の主かと思ったらちががった。異性と交際すること、クリスマスを恋人と過ごすこと、素敵な誰かを好きだったこと、共有できたかもしれないこと、決っして共有できなかったこと、そうして過ぎた日のこと、を何度も何度も思い返して自分を納得させている話なんだと思う。

失恋してしょげて、でもまだほんわか好きで、まだそんな自分をどう落ち着かせたらいいのか分からないみたい。
水尾さんをめぐって、常に<私>をぐるぐるとまわる。四畳半を男汁でいっぱいにしながらも、自分を肯定する姿勢がすがすがしくもあり。ほとんど自分と重なりそうで、懐かしくもあり。

まだまだ先だろうけれども、きっと誰かと深く見つめ合うような物語も書いてくれると期待してます。

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『きみはポラリス』三浦しをん

☆☆☆☆

『世間の注目も原稿の依頼も「恋愛」のことばかり。なら、とことん書いてみようじゃないの! ということで生まれた ただならぬ「恋愛短篇集」』(オビより)

エッセイは本当に大好きでよく読むのだけど、作品は好きなような、普通くらい?なような。今回の恋愛短篇集、は失礼だけど意外ととてもほっこりできて良かった。

いろんな関係、いろんな立場の、いろんな愛、恋、愛情。結婚してる人とか、結婚を考えている人がわりと多いのは、しをんがお年頃だからか?

この人たちはこうです、とか、○○とは●●である、と言い切ってしまう型にはめることが嫌なんだろうなと思う。入りそうで入らない、それが生きてるってことだ。
どこかにたどり着くかも、あるいはどこにも着けないかも。だけど、日々は過ぎて行って人は(人間関係は)変化しつづけていく・・・そういう揺れている人たちを書くのが好きなのかなと思う。

それから、誰も他人を自分のものにできないっていう前提があって、それは正しいよなぁと思う。自分のものにしようだなんていう不埒者も登場してこないし。
他人と暮らすことを冷静に見てるものだなぁと感心だ。ねちねちしてないのもヨシ!(江国香織とかはだから苦手・・・ 愛が重くて逃げたくなる)

とことん書いたかといえば、まだまだ! まだ、キレイに書いてると思う。ねちねちが嫌と言いつつ、でも奥の奥までいってさらりと書けたらいいのに。人間の観察はすごくいいと思うので、これからも精進していただきたい。

風が強く吹いている』でも、とにかく襷を渡すこと、全力を尽くすこと、ゴールすることに燃えに燃えているのが素敵だった。結果は結果としてついてきたわけだけど、走れてよかったよ!と素直に思えたからー。

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『エロマンガ島の三人 長嶋有異色作品集』長嶋有

☆☆☆★

表題作は、エロマンガ島(バヌアツ共和国)に行って、エロマンガを読む。というゲーム雑誌の企画のために日本を飛び立った三人の男たちの話。タイトルはインパクトがあるけど、物語はとてもまっとうなまとまりが。もう少し文章にリズムがほしいけど、これがゆるゆる企画に合っているのかも。

異色って書いてあるので、これで長嶋有がいいとか、好みじゃないとかいいにくいけど、明るそうでちょっと温かいような『エロマンガ島の三人』とかより、乾いた話『ケージ、アンプル、箱』みたいなほうが好きだった。

表紙イラスト、挿絵は大好きなフジモトマサル。飾っておきたい表紙ー。

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『【新版】走れメロス』森見登美彦

登美彦氏の著作。名作をその作品が持っている勢いとか、世界を取り込んで登美彦氏風に書いてみました、というもの。もとになっているものは、『百物語』以外は一度は読んでいる(でもかなり忘れてて、雰囲気は覚えているくらい)

原作を越えるものではないのだけど・・・

(※下敷きになっている作品はwebで読める。
→青空文庫 http://www.aozora.gr.jp/

『山月記』(原作:中島敦作)
斉藤秀太郎、という人物設定が面白かった。いつも未完の超大作(小説)をひたすら書いて、世の中を斜めに見るわりに、友人もいるらしい。李微ほど、世間を僻んだりしてなさそうだったけど、京都の山に入っていってしまった。

『藪の中』(芥川龍之介)
真相は藪の中、というほど薮の中には入れていなかった。屈折した男の感情を書くのはうまいわ。これはわりと同情できない男のじめじめした話。

『走れメロス』(太宰治)
楽しく読んだ。
もともとがメロスの発する、友への思い、疾走するメロスの勢いが躍動する文章なので、登美彦氏の持ち味と合って、ピンクのブリーフ1枚で踊りまくる姿とあいまてって、愉快!
いいなぁ ばかな男の友情。

私は信頼されている。私は信頼されている。先刻の、あの悪魔の囁きは、あれは夢だ。悪い夢だ。忘れてしまえ。(『走れメロス』太宰治 から)

『桜の森の満開の下』(坂口安吾)
山賊が美しい女を奪い、その女が次々にほしがる「首」を都の屋敷に運ぶが、首を取ることにも飽きて、何もかもに飽きてしまって、山に帰ろうと・・・ という話だったと。

登美彦氏は、小説家志望の男が桜並木の下で出会う美しい女から、作品のインスピレーションを与えてもらい、成功に成功を収め、京都から東京へ行く・・・になっている。書いても書いても、同じものを書いているような気がして、書くことが素敵じゃなくなっていく空しさが積もっていくお話。怖くないけど、作家って自分のなかから何かを絞り出すもののはずだから、誰かに頼って書くのは、空っぽになるに決まっているわ。

何となく。頑張れ登美彦氏!

『百物語』(森鴎外)
関西では有名な劇団の主催者「鹿島さん」(脚本、演出もする)が主催する「百物語」の会に、友人に誘われて参加する「森見君」。
座敷童のような、「鹿島さん」の存在が、噂とか思い込み、で作り上げられたものなのか? それとも、妖怪なのか?? どっちつかずの存在、うっすら怖い。

ISBN13:978-4-396-63279-3  \1400 祥伝社 2007.3

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